🐾 犬の腎臓ケアとたんぱく質
誤解の多いポイントを科学的に整理
「腎臓が悪くなったら、たんぱく質を減らさなければいけない」
この考えは、今でも多くの飼い主さんに信じられています。
しかし、現在の獣医栄養学では、この考えはすでに大きく更新されています。
腎臓ケアの本質は、
“たんぱく質を減らすこと”ではなく
老廃物の負担を抑えながら、良質なたんぱく質を適切に摂取すること。
■ なぜ「低たんぱく信仰」が広がったのか
かつての治療方針では
- 尿素窒素(BUN)を下げたい
- クレアチニンを上げたくない
- 老廃物の発生量を減らしたい
という考え方から、
「とにかくたんぱく質を減らす」という一律制限が主流でした。
ところが、近年の研究により次の事実が明らかになっています。
- 過度なたんぱく制限 → 筋肉量減少
- 筋肉低下 → 免疫・代謝・食欲の悪化
- 低栄養 → 病状進行とQOL低下の加速
Finco et al., JVIM
慢性腎疾患犬において、
過剰なたんぱく制限は筋肉量低下と死亡率上昇に関連
■ 腎臓病で本当に問題なのは「量」より「質」
重要なのは
✅ 良質なたんぱく質を必要十分量摂ること✅ 老廃物を多く生む低品質なたんぱくを避けること
問題になりやすい「低質なたんぱく」
- 酸化したミール原料
- 過度の高温加工で変性した肉副産物
- アミノ酸スコアの低い混合植物原料
こうしたタンパクは
- 老廃物(アンモニア・尿毒素)増加
- BUN 上昇
- 腸内腐敗促進
- 炎症性サイトカイン増大
を招きやすく、腎臓負荷を増やす要因となります。
■ 腎臓ケアで重視すべき4本柱
① たんぱく質の「質」を重視
- 未変性で自然形に近い肉由来たんぱく
- アミノ酸スコアの高い素材
目安量:体重1kgあたり 4〜6g / 日
※個々の腎機能・筋肉量・年齢に応じて調整
② リン管理と Ca:P バランス
慢性腎疾患の進行因子として最重要となるのがリン濃度の管理です。
- 腎機能低下の加速
- 腎性副甲状腺機能亢進
- 骨代謝異常
を招きます。
犬の推奨比率
Ca:P = 1.2〜1.4 : 1(許容範囲 1 : 1 〜 2 : 1)
(出典:NRC / AAFCO)
カルシウムは腸管内でリンと結合し、
リン吸収を抑制・排泄促進 する役割を担います。
生肉(生食)と Ca:P
- 骨由来の自然なカルシウム供給
- 加工変性の少ないリン源
によって、
Ca:P バランスを生理的に整えやすいという特徴があります。
③ 炎症と酸化ストレスの抑制
- EPA+DHA(魚油)
- 抗酸化栄養素(ビタミンE・ポリフェノール群)
- 高温加工を避けた食事設計
これらにより
腎糸球体で起こる慢性炎症反応の進展を抑制します。
④ 腸内ケア
「尿毒素の腸由来発生」
腸内腐敗で生じた尿毒物質は
- 肝臓
- 腎臓
へと循環し、負荷をかけ続けます。
そのため、
- 水溶性食物繊維
- 善玉菌増殖サポート
による腸内環境改善が腎ケアにも直結します。
■ 「低たんぱく=腎臓にやさしい」はもう古い
| 誤解 | 実際 |
|---|---|
| 腎臓病では低たんぱくにする | ✅ 良質たんぱくは必須 |
| たんぱくが腎臓を悪化させる | ✅ 過剰制限の方が有害 |
| 数値を下げること最優先 | ✅ 筋肉維持と炎症管理が重要 |
■ 食事で実践できるポイント
- たんぱくは「減らす」ではなく「質を上げる」
- Ca:P バランスとリン管理を意識
- オメガ3脂肪酸を補う
- 腸内ケア徹底
- 水分摂取量アップ
■ まとめ
腎臓ケアとたんぱく質は、対立しない。
むしろ重要なのは
良質たんぱく × リン管理 × 抗炎症食 × 腸活
これが、腎臓ケアの“現代型スタンダード”です。